カ・ク・シ・ゴ・トを聴いて

 

 今回の記事について

・yummy!!収録北山宏光くんのソロ「カ・ク・シ・ゴ・ト」についての主観を挟みまくりの論文

・ツアー前に書いたものをそのまま載せるので公演を観た後の感想などは含まれません

・主観と賛辞とキモキモポエムを多量に含むので注意してください

・とにかく長いです…暇なときに読んでください…(約14000字になります)

以上の条件を踏まえてご覧ください!

 

 

 


1.今回のソロを聞いて~所感

 イントロから感じたのは、今回のソロは今までにない北山宏光だということだろうか。過去にはロック調のギラついた曲調のソロからアップテンポかつ等身大の「恋」を歌い上げたソロ、はたまた切なさに胸が締め付けられるようなソロ、と様々な曲調に挑戦してきていた北山くんだが、今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」は、今までのソロのどのジャンルにも当てはまらないのである。三十歳を超えまさに身も心も大人になった2018年の北山くんが聞かせてくれるのは、ずばり「アダルトロマンティックラブ」だと思う。
 流れ出したメロディはどこかジャズのようで、シックな曲なのだろうか?と思わせるようなものである。しかしそのまま聞いていれば、シックなだけではないアップテンポなメロディに乗って北山くんの歌声が溢れる。伸びやかな鼻声で夢心地になったと思えばAメロから始まる「大人」な歌詞におののく。
 今までにあるソロで言えば、「Give me…」や「FORM」と似たジャンルに分けられると思うのだがその二曲とはとは決定的に違う。前者二曲は言うならば「ありのままのまっすぐな恋」、今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」は、「落ち着いた大人が見る恋」と言ったところなのだろうか。
「Give me…」「FORM」は、北山くんが歌詞の中に見る相手への思いやりやまっすぐな愛情がその歌詞の節々に感じられるように思う。しかし「カ・ク・シ・ゴ・ト」では、どこか相手を試しているような、恋の駆け引きとでもいうような、どこまでも相手の魅力を引き出すような、誘うようなそんな雰囲気で聞いているこちら側を魅了するのである。
 とは言っても、今までのソロの雰囲気をまったく受け継いでいないということはない。「FORM」の「言葉はちっぽけだから 塞いで何も言わなくていい」が、「カ・ク・シ・ゴ・ト」での「唇で語るから もう言葉はいらない」になり、「Give me…」「FORM」それぞれにちりばめられている「愛してるよ」や「愛の言葉何度だって伝えていこう」などの、真っすぐすぎる愛情表現は、「カ・ク・シ・ゴ・ト」でも「溢れ出した I love you」「ここに誓う I love you」などでしっかりと回収されている。また、「優しい雨」での「優しい雨が頬を濡らす」は悲しい意味合いで雨が歌詞の中に使われていたが「カ・ク・シ・ゴ・ト」の中での雨は「疑う心はいつも雨」「理性を濡らす雨は」など、概念的な雰囲気で雨という単語が使われているように思う。
 北山くんの恋愛観や愛情表現の良さはそのままに、雰囲気がぐっとアダルトな香りをまとった今曲は、「今何ヲ想ウノ」「優しい雨」などの切ない恋のソロと年月を経て、大幅かつ最高すぎるアップデートが為されたと言って過言ではないだろう。
 次に述べておきたいのが、「カ・ク・シ・ゴ・ト」の歌詞のシンプルさである。今までのソロの歌詞を見てみると、一言で言い切る歌詞ではなく何行か、何節かに分かれて北山くんの気持ちを映したものが多かった。しかし今回の歌詞を見てみると、短い文の組み合わせで歌が流れていく。昨年のソロ「優しい雨」を例にとって見てみると「さよなら言わないで何度でも今なら君が好きって好きだよって言うから」と、この一連の歌詞は一続きで意味を持つものである。しかし「カ・ク・シ・ゴ・ト」では、「溢れ出したI love you/最後だからPromise you/引き寄せられてしまう/なんて運命的な二人」と、ひとつひとつの節で歌詞が切れるのである。かといってそれぞれの歌詞がぶつ切りになるのではなく、次の言葉へ次の言葉へとかかっていくようなリズムが歌詞をまとまった意味に見せる。一続きの歌詞ではなくシンプルな歌詞を繋げる連鎖によって色気のある歌詞もしつこくなくすっきりと歌い上げることができていると言えるのではないだろうか。
 そしてなによりも北山くんの歌声がいいのである。こんなことは言わずもがなKis-My-Ft2ファンどころか全人類が周知の事実であるが今までに聞いたどのソロよりも北山くんの声が甘く聞こえるのは私の気のせいではないと思う。歌詞の最後を伸ばし(母音にビブラートを乗せる)それをブレスで打ち消す感じがたまらなく甘いのである。また、普段の地声や歌声も決して高い方ではない北山くんだが、今回のソロのサビでは高音、裏声をふんだんに採用しており甘く大人な歌詞を高らかに歌い上げる高音がなんとも胸をしめつけてたまらない。なによりもサビにしか高音を入れていないのも北山くんの目論見の一つなのだろう。ここが聞きどころである、一番盛り上がるところである、ということをこんなにもはっきりとわかるサビがあっただろうか…心臓がぎゅうとなる引き込まれる歌声に一度聞き惚れてしまえばエンドレスリピートが止まらない。
 サビに着目して言えば、Aメロ~Bメロではゆったりした曲調であるのにサビに入る前に突然気分の盛り上がりに拍車をかけるようなリズムに切り替わる。本題のサビ自体もサビ前の雰囲気は残しながらも、トランペットの音色やエイトビートがはっきりと聞こえる華やかな曲調になっており、派手派手しい転調ではないけれども確実に盛り上がるポイントをしっかりと押さえた切り替えにただただ感嘆のため息を漏らすばかりである。
 歌い上げるテンポのいい落ち着いた上品な曲調がその甘さに拍車をかけていること、歌によってきちんと声を変え歌い分けをすることができる(同アルバム内でもカ・ク・シ・ゴ・ト、FREEZE、Real Meの三曲では声が全く違う)、七色の歌声を持つ北山くんの新たな歌声が今ここに来てようやくまたひとつ解禁されたということなのだろうか。
 それともロックバンドL’Arc-en-Cielhydeが残した都市伝説まがいの話である「レコーディングの前にセックスをして歌入れをしたら声がいつもより甘くなった」という逸話の通り、北山くんも歌入れ前の夜、女をひっかけてレコーディングに臨んだのだろうか…なんて、邪な想像をしてしまうほどには甘くセクシーな鼻がかった歌声に、一体何人の北山担当が妊娠検査薬を買いに走ったのだろうか。

 

2.作詞作曲について

 今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」でもこれまでの自身のソロ曲の例に漏れず、作詞作曲を手掛けたのは北山くん本人である。編曲にKis-My-Ft2の楽曲提供でもお世話になっている鈴木雅也氏を呼び、珠玉のソロ曲を仕上げてくれた。鈴木氏が関わった最近のKis-My-Ft2の楽曲は「メガ☆ラブ」「NOVEL-Album ver.-」(2016年リリースアルバム I SCREAM収録)、「Baby Love」(2017年リリースアルバム MUSIC COLOSSEUM収録)、「HOT!×2」(2017年リリースシングル 赤い果実 収録)などの編曲を担当にあたってくれている。こうして並べた曲を見てみるとアップテンポな曲が多いように感じられるが、「カ・ク・シ・ゴ・ト」では最高に夢を見られる甘く大人な楽曲に仕上げてくれているのだから、やはりこれがプロの為せる業というものなのだろう。
北山くんはデビュー前のソロ曲から作詞を自身で手掛けているが、作詞作曲すべてに挑戦したのはなんとこれまたデビュー前のソロ「今何ヲ想ウノ」(2016年リリース「I SCREAM」に編曲版が収録)であり、この時から北山くんの才能は花開いていたことが垣間見える。曲の長さは三分少しと少々短いように思えるがデビュー前のソロということを考慮すればまったく問題ないだろう。むしろ才能が有り余っているくらいである。
 次に北山くんが作詞作曲を担当した自身のソロ曲は、「今何ヲ想ウノ」発表後(初披露は2011年藤北クリエ)3年後にリリースされた2014年のアルバム「Kis-My-Journey」に収録されたソロ「FORM」である。2013年に発表されたソロ「Give me…」の作詞だけでも北山くんの等身大の恋愛観が読み取ることができ、十分実力があると言われていたのに北山くんの才能はそこでとどまることを知らなかった。「FORM」は北山担当だけでなく他メンバー担当からも絶賛される仕上がりで私たちを魅了したのだ。北山くんがすぐそばにいるように感じられる飾らない歌詞、それを高らかに歌い上げる北山くんの伸びやかな歌声、テンポのいい曲調に全Kis-My-Ft2担が涙した。
 「FORM」以降北山くんは自身のソロの作詞作曲を自分自身で手掛けるようになった。2015年のアルバムにはソロ曲がなかったので「FORM」以降のソロは三曲(細かく言えば2曲)。2016年再編曲初音源化「今何ヲ想ウノ」、2017年発表「優しい雨」、そして今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」である。これらの3曲はすべて北山くんが作詞作曲を担当している。前者2曲はどちらかと言えばバラード調のもので、北山くんはしっとりした切ない雰囲気の歌のほうが得意なのだろうか、と感じていたのだがその考えは今回の最新ソロ曲でぶち壊されることになる。確かに今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」もぎらぎらに激しい歌ではない。けれども曲の中にちりばめられた深い愛情を感じることができるし、大人な表情が見え隠れするような焦らされた感じが与えられる。
 最も触れておきたいのが曲名のことである。作詞作曲が北山くんなら、もちろん曲にタイトルをつけたのも北山くんなはずである。北山くんのソロ曲のタイトルが「カ・ク・シ・ゴ・ト」だという発表があったときに、実は少し怖くもあった。2012年に発表した「蛹」のような歌だったら(曲中に台詞が入ったりする北山くんが自分に酔ったソロ曲)どうしようと思ったし、このタイトルではどんな歌なのか全く想像ができない。かろうじて浮かんでくるそのビジョンはというと昭和歌謡のような少しばかりレトロな雰囲気のものだろうか、といった始末である。こんなことを言うのは大変に失礼だとわかっているが、「カクシゴト」の間に・を入れるのが絶妙にダサいな、北山くんらしいななんて苦笑いをしながら「カ・ク・シ・ゴ・ト」に触れる前の私は思っていたのだ。
 さて本題のタイトルについてであるが、まず「隠し事」の意味を調べた。「他に隠してする事柄。秘事。」と出る。次に「秘事」。「秘密の事。容易に知り得ないこと。ひめごと。」とある。「ひめごと」の意味も調べたがほぼ前述2つの単語の意味の繰り返しだったため割愛。こちらの3つは広辞苑で調べたものであるが、日本人であれば「ひめごと」のもうひとつの意味ぐらいは周知の事実であろう。広辞苑には載らないもう一つの意味をネットにて検索をかけてみた。一番上にヒットしたページを開くと、そこには「世間的に許されない立場の者同士による恋愛のこと」、「性行為のこと」とあった(Weblio類語辞書)もうなにも言う必要はないほどに十分すぎる意味が出て来ただろう。
 以上で出たどの意味に北山くんの「カ・ク・シ・ゴ・ト」があてはまるのかはわからない。それどころか、この曲名はすべての意味を持つのではないだろうかと考えている。つまるところのダブルミーニングである。端的に表現するとすれば「周囲に隠れてしずかに燃える恋」とでも要約すればいいのだろうか?正しい解釈の仕方は北山くんのみぞ知る、タイトルからしても非常に興味が掻き立てられて止まらない。はじめは「ダサい」などと思っていた・すらも今となっては「カクシゴト」と表記するよりも「カ・ク・シ・ゴ・ト」とするほうがまるで北山くんが一文字一文字囁いているような、そんな錯覚にすら陥ってしまうのである。
 北山くんは奇跡の童顔を持っていたとしても立派な、まじめな、れっきとした「オトナのオトコ」なのである。グループ最年長でありながら普段はチビだの昭和臭いだのメンバーに揶揄られ本人も甘んじて(多少は反抗しているけれど)そのイジリを受け入れている。けれどもひとたび「自分の色が一番出る、自分が最高に輝く見せ場」のソロ曲ではっきりと他のメンバーには到底真似できないような実力で圧倒してくるのである。本当にずるい男だ。北山宏光には誰も勝てない。
 ここまで北山くんが作り出してきた「北山宏光の世界観」について述べてきたのだが、今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」の曲の長さは4分4秒。謀らずとも北山くんのラッキーナンバーの4のゾロ目である。昨年のソロ「優しい雨」は4分57秒であったことから曲の長さはすこし短くなっているのだが、歌詞を打っていて気付いた。「カ・ク・シ・ゴ・ト」の歌詞は全部で300文字ぴったりなのである。ちなみに「優しい雨」は435文字、「今何ヲ想ウノ」は232文字、「FORM」は565文字である。400字詰め原稿用紙一枚に収まる、むしろ余す歌詞のコンパクトさ、4分4秒でここまで「北山宏光」の恋愛観人物像世界観すべてに触れることができる珠玉のソロ曲があっただろうか。
 スマートに愛を語るオトナな北山くんのずるい策略、計算された今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」。きっとどこかの化粧品か洋服メーカーから声が掛かってCMに採用され全世界の人類が北山くんの虜になる日もそう遠くはないのであろうとそう真剣に思っている。


3.歌詞の掘り下げ

 それではここからいよいよ「カ・ク・シ・ゴ・ト」の歌詞の掘り下げに入って行きたいと思う。歌詞を一文ずつ抜き出し、主観ではあるが自分なりの解釈を述べていくことにする。

“Da-Da-Dance DaDance…”  
 ジャズっぽい雰囲気なのにダンス、かと感じた。そんなに激しく踊るような曲調ではないけれど、過去の北山くんソロでは素晴らしいダンスを披露してくれているため今回もダンスの軸はぶれずにスローで甘いダンスを魅せてくれるのだろうと曲開始10秒で察する。
“Kissから香る 色気はGin&Ice”
 曲冒頭の「Dance…」の回収がされたような気がする。ジャズバーかどこかで知り合った二人はいつの間にか身を寄せ合う。キスから香る…ということはもう唇は重ねた後なのである。ジンといえば結構に強いアルコール。女のほうが酔っているのか、男のほうが酔っているのか。そもそも酔ってなどいないのか、ジンの香りがするキスにくらくらしてしまいそうである。完全に主観であるがこの歌の雰囲気ではタンカレーロンドンをロックで飲んでいると予想。
“秘密は絡み合う指 綺麗だ…”
 アルコールが香るキスの後に男の唇からこぼれるのはあまりにもまっすぐな誉め言葉。キスを重ねているうちに、人目をはばかるようにカウンターの下で絡み合った指に、お互いからもはや逃れられない。
“疑う心はいつも雨”
 何回も恋を重ねて来たであろう女は苦い経験も失敗も積んできている。甘い雰囲気になっていても今回の相手はどんな相手なのか、とどこか探った目で見てしまう。雨が降っている時のような、静かな頭痛と軽いめまいの中に相手の心を読もうとする。
 ここで「雨」の意味を調べてみたところ、派生の意味として「絶え間なく降りそそぐもののたとえ」とあった。絶え間なく心を埋めるのは、疑心だけなのかそれとも…
“濡れている真実は 目の前にいる僕さ”
 これは上からの歌詞にかかってきている。「疑う心」に見合う「真実」は、「雨」に「濡れている」。前の小節からの完璧な対比は、言うならばさながら枕詞である。そして、疑う心に見合う真実は、理屈で語るわけでもなく抱き寄せるわけでもなく、君の目の前にいる僕自身が真実だよ、と言い切るところが男らしい自信が見え隠れしている。濡れている、というとどこかぼやけているような、曖昧なようなイメージを描いてしまうけれども、目の前にいる、と続けることによって「信じられる」という確信に繋がる。
 こんなに男前なことを言っているのに「僕」という一人称がたまらなくこちらの母性本能をくすぐるのである。ここからサビに入る歌の流れの一連まで込みにして、お見事と言わざるを得ない。
“溢れ出した I love you”
 きっと先ほどまでは我慢していたであろう愛の言葉がついに溢れ出してしまう。もはや難しい言葉などいらないのである。
 前述したようにサビのメロディはAメロなどに比べると華やかなものになっている。ここに「溢れ出した」という歌詞を使いメロディも一気に上げることで溢れ出した感が強く出る。
“最後だから Promise you”
 この「最後」がどんな意味なのか?言わずもがなに「お前が最後の女だよ」という意味なのだろう。「最後だから」の後に続く「Promise you(君に誓う)」でそれを証明している。女は最後の女という言葉が好きである。男に言われたい台詞でも五本の指に入るだろう。ここで女の一番欲しい言葉をくれるところが、さすが北山くんなのである。
“引き寄せられてしまう なんて運命的な二人”
 もはや運命だと言ってしまえそうなほどに惹かれ合う二人、引力かなにかで引き寄せられてしまうほどに。「運命的な二人」の前に「なんて」をつけることによってよりふたりの関係を熱くロマンチックに見せている。
 ここで「運命」、「運命的」の意味にそれぞれ触れておく。「運命」は「人間の意思にかかわりなく、身の上に巡ってくる吉凶禍福。それをもたらす人間の力を超えた作用。めぐりあわせ。」とある。すべての意味を読んでから、最後の付け加えとして「めぐりあわせ」が来ているのもなんとも説得力がある。
 続いて「運命的」であるが、こちらは「運命として決まっているかのように思われること。また、以後の運命を決定するほどであること。」となっている。辞書を引いてこの意味が出てきた時、なんて情熱的な意味なんだろうか…と感動したことをここに残しておく。
 この出会いはこのあとのふたりの運命を変えてしまうほどのものだということがこんなにも端的に述べられているのである。ここで脳裏に浮かんできた百人一首をひとつ紹介しておきたい。
 逢ひ見ての 後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり(第43番 権中納言敦忠)
【あなたにお会いしてからのちの恋しく切ない気持ちに比べると、会わなかった以前は何も物思いをしなかったと同じことである】、この歌詞に見合う一首なのではないだろうか。
“唇で語るから もう言葉はいらない”
 一見矛盾しているように見える歌詞だが、これもいわずもがなであろう。唇で語ると言うのはキスのことである。Aメロでは綺麗だ、なんてこぼしていた甘い言葉ですらも捨ててしまったふたりは、次はお互いの肌で語り合うのだ。
“瞳に映る君は Who love…”
 きっと濡れそぼっているお互いの瞳に映る姿。ここまできてもまだ、本当にこの愛を信じていいのかと思っている気持ちが現れている。”who”の使用用法であるが、文頭にくる略式としては「だれを」と使う他に「どの(人を)を」という使用例もある。純粋に「誰を愛しているの?」という意味、「どの人を愛しているの?」という「他にも対象がある」という意味どちらともとれる。これも北山宏光が仕掛けたダブルミーニングなのであろうか。
 また、音が心地いいのもポイントである。「フラ、フラ…」と聞こえるため、揺れ動く気持ちをしっかりと回収するオノマトペ的な役割も果たしていると言えるだろう。

 

 ここまでが一番なのだが、ここまででも文句のない完璧に色気のあるずるい男である。酔った勢いで、なんて感じさせない真っすぐな誉め言葉に、信じられないと疑う女に、僕は君の目の前にいるだろう?最後の女にすると誓うよと言ってのける強気で勝気な「北山宏光」なのである…
 続いて一番よりも甘く溶けるような夢の二番に続く。

 

“溺れた欲を騙してLaugh&Lie”
 まず、「騙す」という一番の意味は「嘘を吐く」だと勘違いしがちだが、実は「騙す」の意味は「なだめる」なのである。ここでなだめるという単語を使わずに騙すを使うのは、大人同士の恋愛にだましだまされはよくあることだと言うことの示唆も含めてなのだろうか。そして「溺れた」。これはまさしく「君に溺れた」ということそのものなのだろう。そんなどろどろした欲望を騙して、なだめるように笑うのである。まさにアダルトな恋愛という感じがしないだろうか。
“素直になれないのは 熟れだした本能なのか”
 きっともうふたりともよっぽど余裕がないのに、素直に子供のように抱き合えないのは熟れだした本能…若かっただけの頃とは違う、年を重ねたからこそしてしまう遠慮や恥じらいという、心に刻まれた本能が邪魔をするのである。
“あいつが残るなら飲み干して”
 ここで過去の男が女の影にちらつき出すのである。女は比べるのが好きな生き物である。比べるとまではいかなくても、似たような夜の経験があるのかもしれない。その残滓が脳裏に浮かぶのかもしれない。ここでまたアルコールをほのめかすような歌詞である。強い酒を飲んで酔ってしまえよ、ということなのだろうか。必ずしもお酒を示すものではないとは思うが、一番にあったGin&Iceのくだりを考えれば妥当ではないだろうか。
 また、ここで「あいつ」と言っているのがなによりもポイントである。急に「あいつ」というぶっきらぼうな二人称を出してくることによって一気に歌詞の男らしさが増す。甘い鼻声と態度に隠された男の顔がようやくここで現れてくる。
“寂しい夜ならば忘れさせてあげるよ”
 女の脳裏に浮かんでいる、過去に過ごした切ない夜の雰囲気を察知した男。そんな夜なんて忘れさせてあげる、とこれまた色男全開の台詞を吐くのである。「女の恋は上書き保存」とはよく言ったものである。そんな女性心理も込みでさすがとしか言えない、また百戦錬磨の「抱き捨てられたい男ナンバーワン」の北山くんにしか言えない歌詞であると感じる。
“形のない I need you“
 形にはできない、君を欲しいと思う気持ち…これがまさに「愛」なのだろう。言葉にして言ったとしても、いくら態度で示したところで愛は結局目には見えないものなのである。
“流されてく Falling you”
 ここの歌詞の意味を取るのが大変難しい。「Falling you」と書いているところから、君に惹かれて行ってしまって仕方ない、というような雰囲気ではないだろうかと考える。他のことを考えようとしても、君に流されてしまう。君に落ちて行ってしまう。一番の歌詞そのまま、惹かれ合ってしまう、のである。
“奇跡なんてないから”
 この歌を初めて聞いたとき、ここで「え?」と思ってしまった。今までさんざん運命とかなんとか言っていたのに、突然にこれまた女が大好きなフレーズである「奇跡」を否定されてしまい、なんだか宙ぶらりんに放り出されてしまったような…。しかし、このもやもやは次の瞬間に払拭されるためなにも問題がなかったのである。
“なんて必然的な二人”
 そう、運命よりも奇跡よりも強い、僕たちは必然だよとそう言ってのけてしまうのである。必然的…かならずそうあるべきさま、一番の「運命」からかかってきている、二人の関係を表す最上級の修飾語である。ほんの数秒前に感じていた不安はあっさりとそれよりも何倍も大きい幸福により洗い落とされてしまう。これが上げて落とす、飴と鞭というやつなのだろうか、と感嘆のため息を漏らした。
 また、「奇跡」の意味は「常識では考えられない神秘的な出来事」とあった。ここで奇跡を否定して代わりに「必然」という言葉を置くことによってどこか二人の関係を現実的かつ情熱的であることを示している。
“抱きしめたらすぐに また求めてしまう”
 抱きしめると、肌に触れると、また君が欲しくなってしまう…「また」というのがポイントである。少なくとも一度は肌を重ねているのに、もう一回、と欲しくなってしまう。静かな歌詞だけれど、北山くんの男らしさが見え隠れしていると思う。
“君のせいだよ…だから Tonight…”
 完全に余談であるが、筆者は男性が見せる弱さがたまらなく好きである。好きになったのはお互い様であるはずなのに、この歌で北山くんは「君のせいだよ」と笑う。この台詞ははたまた「君がこんなにきれいだから、色っぽいから。俺は悪くない」というニュアンスを含んでいると思うのだが、まず一つ目にこれは女に向けた暗喩的な賞賛であること。二つ目はなんとも甘く逆らえない責任転嫁を押し付けてきているということ。こんなにスイートな責任ならいくらでも背負ってやると言うものである。
 また、「君のせいだよ」だけでは飽き足らず「だから」と続き、サビ終わりは「Tonight」と締めるのだ。まさにTonight is the night(今夜がその夜だ)である。だから今夜、僕が君がどうなったとしてもそれは君のせいなんだからね、という無責任な逃げ、実は横暴な責任転嫁……これが抱き捨てられたい男ナンバーワンの北山宏光、なのだ。個人的にここの歌詞が一番好きである。

 

 二番は一番よりも男と女の距離が縮まっているように感じる。出会いを経て二人の時間を過ごすようになれば、甘い言葉のささやきはもちろん密度の濃い時間も…というような官能小説顔負けの展開である。まさにアダルト。一番では紳士的な顔にちらりと男の顔を見せているような印象だったが二番ではそれが反転し男の顔の奥に優しさを潜ませているように思う。次はいよいよラストサビである。

 

“ここに誓う I love you”
 一番で言っていた「I love you」が「ここに誓う」になっている。二人の時間を過ごした後に、やはり男は「愛している」と言うのである。きっと、最初に会った時よりも真剣な瞳や声色、それはまさに教会で一生を誓うときのようなそれで。
“最後だからPromise you”
 上で述べたくだりはさらりと歌詞を変えてきているのに、君に誓う、のほうは歌詞がそのまま。やはり女が欲しい台詞をわかっているということなのだろうか…もしくは、上の「ここに誓う I love you」をそのまま「君に誓う」という、前の文をそのまま受ける形をとっているのかもしれない。
“引き寄せられてしまう なんて運命的な二人”
 ここも一番のままである。二人で時間を過ごしてもやはり、お互いに引き寄せられ合ってしまうしこの出会いは運命的だったとそうしみじみと感じているように思う。
“唇で語れたら カクシゴトを始めよう”
 ここである。一番では「唇で語るから」と、男のほうが主体になって動いているような言い方をしていたが、ここで急に女の方にもその行為を求めてきている。1の所感で書いたが、どこか相手を試しているような印象を一番受けたのはここの歌詞の影響が大いにあると感じる。もし唇で語れたのなら、さあ「カクシゴト」を始めよう、なのである。ここにきてきちんとタイトルを回収していく感じが非常にずるい。よくできている。一切タイトルの「カ・ク・シ・ゴ・ト」を歌詞に登場させなくても雰囲気でそれは補えたと思うが、きちんと北山くんはタイトルの回収をこなした。ラストサビに持ってくるのもいい演出だなと思う。
 2の作詞作曲でタイトルに触れたときに書いたが「カクシゴト」の意味は多様にある。カクシゴトを始めよう、とその内容、中身までも覆い隠すミステリアスでロマンチックな感じが、全国の北山宏光ファンをたまらない気持ちにさせる。
“理性を濡らす雨は Who love…”
 二番の歌詞(熟れだした本能)に対応するような歌詞である。熟れだした、というと真っ赤に熟した、というようなイメージが浮かぶ。ここでは理性に雨を打ち付けることによってそれを多少は冷ましながらもまた、雨が降っているようなぼんやりとしたビジョンの中、濡らすという言葉を使うことによりより一層この一文のアダルトさが増している。

“「…だよ」”
「…だよ」

 音源では本当に小さい声、というかもはやブレスなのだが、最初に聞いた時からかなりのインパクトがあった。歌詞カードの最後に書かれたこの五文字。なんだろう?と思いながら聞き進めていくうちに近づいてくる曲の終わり。最後の最後に、囁くような声で、しかし確実にこちらの心と脳髄そして鼓膜を打ち抜いて殺しにくる。この一言と呼んでもいいのか迷うほどの言葉に、一体何人の北山担当が陣痛を感じたのだろうか。4分4秒ある中でこのブレスボイスがなによりも破壊力を持っている。この「…だよ」をやりたいがために北山くんはこの歌を作ったのではないだろうかと思うほどである。
 北山くんは基本的にKis-My-Ft2の楽曲でもあまり曲中セリフ関連を任されない。例外で言えば前述した「蛹」でのセリフがあるがそれとこれとは話が違うと言うか、ベクトルが違うのである。それゆえに、北山担当は曲中セリフへの耐性がない。そこに来てのこの仕打ち、もはやこれは北山くんによる北山担のための北山担狩り(2018)である。
 まじめに考察をすると、歌詞カードでは…となっていることから本来は「だよ」の前に何かが入っていることは一目瞭然である。しかしそこは…がいい仕事をしており北山くんが「『何』だよ」なのかはわからない。でもわからなくていいのである。これは北山くんからの挑戦状なのである。お前ら、俺になにを求めてるんだよ。俺はそんなの知らねーけど、まあお前らの好きなように聞けば?と意地の悪い顔でほくそ笑んでいるのが目に浮かぶ。
 普通に考えれば「好きだよ」なのだろうが、そこは北山宏光なのでいい意味でも悪い意味でもなにが入るのかはわからない。これは北山くんとファンの方程式なのである。…に入る、つまりxの解は、それぞれが見つければいいのである。
“Da-Da-Dance DaDance…” 
最初でも述べたこの「ダダダンス…」のくだりも、一曲聞き終えた最後に聞けば「君に踊らされているよ」と北山くんが笑っているように感じるものだからつらいものがある。こちらの台詞です。と声を大にして叫びたい。

 以上で主観でしかない気色の悪い自作ポエムを添えた夢小説歌詞の掘り下げは終了。とにかく北山くんがりあこであるということがこの文章で少しでも伝われば幸いである。
 


4.コンサートでの演出

 次に完全に自己満足であるがコンサートでの望ましい演出を書いて行こうと思う。
 筆者は北山くんのバラードであろうがダンスナンバーであろうが止めるところは止める、動くところは動く、完璧な「しゃかりきダンス」が筆舌に尽くしがたいほどに好きである。

 「FORM」でもそうであったように、リズムがある程度しっかりしていれば北山くんはガシガシに踊ってくれることがわかっているので今回の「カ・ク・シ・ゴ・ト」でも、ゆったりした曲調ではあるもののぜひしっかりと踊っていただきたいと思う。
 さてそんなことを思いながらこの曲を何回か聞いているうちに、脳裏に浮かんできたのは嵐、大野智くんの「Hit the floor」(2013年リリースアルバム LOVE 収録)だった。聞いたことがない人にはもちろん聞いてほしいし、できるなら映像で見てほしい。嵐担当ではないしそうだった過去もないけれど、薦められて見たこの歌はとても芸術的だった。
 曲調はこれまたポップジャズのような感じで、それでも大野くんはジュニアを引き連れて華麗に踊っていた。歌詞からするにそんなに激しく踊らないだろうと思っていた筆者はそれだけで驚いたものである。
 だからこそ北山くんにも、ぜひHit the floorの雰囲気を目指してほしいのである。綺麗なシャツを身に着けて、ジャケットを羽織り、同色のスラックスを履いて…真っ黒ではなくできるなら紺とか、むしろ真っ赤とかでもいい。顔が隠れる帽子はやめてほしいけれど、口元だけが見えると逆に色っぽい可能性もあるので、それは北山くんに委ねたい。
 またコンサートでのお披露目は1番~間奏~落ちサビラストサビの流れだと予想して、登場はセンステで、間奏で一度ダンスを止め移動、落ちサビあたりでバクステに到着、ラストサビでもう一度踊ってから極めつけの切り札「…だよ」の前で一気に照明を落として(真っ暗にならない程度に)北山くんにピンスポを当てた最高の状態で「…だよ」をカメラに抜いてほしい。そこで北山くんは「…だよ」のアレンジをしてくれてもいいしそのまま「…だよ」を言ってくれてもいいのだがもうとにかくきちんとカメラが仕事をしてくれればそれでいい。今から叫ぶ練習も準備も心の余裕も生んでおくので。
 今の北山くんのビジュアルは黒髪短髪重め前髪である。もちろんコンサートは生ものであるし北山くんも生きているので、ツアー初日までにどのようなビジュアルに仕上がって北山くんが登場するのかはわからないけれど、できるならこの奇跡の童顔を生かした超幼めビジュアルで登場してほしいものである。黒髪で、こんな幼い顔をしてこんな歌を、というギャップを楽しみたいのである。アイドルはギャップが命。北山くんもそれを重々承知であると思うので是非…! 

 そしてなにより、北山くんがふざけなければそれでいい。いままでのソロ「Give me…」も「FORM」も好きだったがいかんせん北山くんがおふざけを挟みたがるのが問題である。今回、せっかく今までにない雰囲気のソロを作ったのだから心機一転真面目にソロ披露に取り組んでほしい。これも今から祈っておく。(5月3日現在)

 

5.まとめ

 ここまでだらだらと所感や歌詞の掘り下げなどを行ってきたのだが、結局つまるところ言いたいのはやはり、北山くんは天才、ということなのである。今までにもとてもいいソロ曲を作ってきた北山くんは、また今回のソロで新しい夢をファンに見せてくれる。曲風を昨年までとはがらりと変え、アダルトでロマンチックな雰囲気を魅せる曲。作詞作曲を自分でこなし、ほぼ初と言っていい甘い曲中セリフをソロにして叶え、「北山くんの見る世界」を少しだけ、それでもアイドルとして完璧に一般人のファンである私たちに覗かせてくれる。
 亀と山Pの歌にもあった「何回でも更新しよう 最高の思い出を」…。北山くんがきっと今回のドームで見せてくれる奇跡は、きっとなによりも美しい思い出になって心に刻まれるのだろう。きっと、北山くんを応援し続ける限り、何回でも更新されるであろう最高の思い出は、これからもずっと、北山くんを応援する糧になるのだろう。

 


参考文献;広辞苑
    Weblio類語辞書 https://thesaurus.weblio.jp/content/ひめごと) 閲覧日:2018年5月3日

 

 

 

凌くんが見たカメラの向こうの景色

 

初めての記事はあんちゃんの感想にするって決めていました。

オタクは自担を目の前にすると語彙力がなくなりがちですがわたしも例に漏れず語彙力がないオタクなので生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

あとクソ長いです。完全に自己満記録なので悪しからず。 

 

 

 

 

 

暗転した会場の中で、鳴り響く雨の音が晴れて舞台の上に眩しいスポットが当たったと思えば、そこにもう「凌くん」はいる。

最初から不機嫌丸出しの表情で、舞台の中央に立つ父、国男を見つめているのだ。

父が何を言っても頑なに口を開かない姉たち、まっさきに言葉を発するのは凌くんである。

 

「24年だよ!」

 

その言葉に水を打ったように静かになったあと、追い打ちのように「……24年ぶり」と付け足す。ここでまず、年をきちんと数えて把握していたのは凌くんだけなのでは?と私は思った。国男はべつに正確な年月を知りたくて「何年ぶりだ」だなんて言ったわけではないだろうに、その年月の間にどんな思いで凌くんは父を待っていたのだろうか。

凌くんは3人姉弟の一番末っ子、いちばん幼かった凌くんは父がいなくなったときのことをはっきりと覚えていなくても当たり前なのに、まるで昨日あったことのようにはっきりとした口ぶりでそう告げるのは、父がいなくなったことへの想いがとても強かったからではないだろうかと思う。

そのまま話は進み、2人の姉は国男と話すことを嫌がり逃げるように部屋を後にするが、凌くんだけは部屋に残り、ソファに腰掛けて父と会話する。「24年ぶり」告げた年月など感じさせない会話に、心なしか凌くんの表情も優しいものである。

他愛もない会話、話を切り上げて出て行こうとする国男を躊躇いながら引き止める凌くん。

 

「待って!」

 

その声はどこか幼くて、縋るように弱くて、まるで小さい子供のようなものである。

振り返る国男に、自分のアルバイト先であるダビング屋の番号を突きつける。

 

「それ店の番号だから、来るとき連絡して」

 

つい先ほどとは全く違う、そっけない口ぶりで告げる凌くん。そしてそのまま、家を出て行ってしまう国男の背中をぼんやりと見つめる。

暗くなる会場、響くピアノと雨の音、ピンスポットは凌くんと、凌くんの部屋にある黄色い制帽へと絞られる。

 

「24年前」の凌くんと父国男、母瑛子へと舞台は変わる。

のめり込むようにゲームをする凌くん、気づかれないようにそっと足音を消して近づく国男と瑛子。国男の手には8ミリカメラが握られている。

勢いよくドアを開けて入って来る国男と瑛子に大きく声をあげて驚く、やたらにテンション高く迫って来る両親に凌くんはついていけないままあくまでゲームに集中しようとしていれば、国男が口を開く。

 

「お前さあ、弟が欲しいって言ってたよな!」

「……うん……」

「もしかしたら、できるかもしれないぞ!」

 

そう言われた瞬間、凌くんはゲームの手を止めて初めて国男に目を向ける。

 

「…なんて言ったのいま!」

「もしかしたら、弟ができるかもしれないぞ!」

「うそぉ!!!!」

 

ファミコンのリモコンを落として立ち上がる凌くん、目を煌めかせて国男を見つめる。「いつ生まれるの?」「名前は?もう決まった?」などとせっかちに両親に質問を投げる。

心の底から嬉しそうな凌くんに国男も瑛子も嬉しそうで、瑛子は凌くんを抱きしめる。

そんなやりとりの中で、国男はこう言う。

 

「これからは、あんちゃんって呼ぶか!凌のこと」

 

幼い凌くんは聞いたことがない単語に首をかしげる

 

「お兄ちゃんって意味だよ」

 

そう言われて「あんちゃん」と繰り返す凌くん、続いて「あんちゃん」と呼びかける国男に瑛子。その表情は次第に明るくなり、凌くんは心の底から嬉しそうに言うのだ。

 

「『あんちゃん』かあ!」

 

ここでオープニングのピアノが鳴り響くのが、たまらなくいい演出だとそう思った。

凌くん、国男、瑛子の3人は8ミリのビデオを回しながら楽しそうにふざけている。国男が向けるカメラに凌くんは「あんちゃんだよ〜!」などと言って手を大きく振ったり、伸びをしてみたり。瑛子も楽しそうに凌くんと一緒に笑顔を振りまいている。まさに理想の家族であり、ただ純粋に喜ぶ凌くんは、なにも汚れを知らない「こども」だった。

舞台は暗転して、オープニング映像が流れる。舞台の上をカメラを持って駆け回る凌くん。その意味は、後から明かされる。

 

さて舞台がまた明るくなれば、凌くんはまた不機嫌そうにゲームに勤しんでいる。

この時にはすでに国男は蒸発しており、凌くんは不登校になっている場面なのである。

凌くんの担任である芹澤が凌くんに向かって九九を練習させており、凌くんは一度もその呼びかけには応じない。

母瑛子が8の段を間違えまくるシーンであり、舞台始まって最初の「お笑いシーン」である。

膝に置いていた膝を落として呆れる→ファミコンのリモコンを落とす→お茶を注いでいる途中に机に盛大に足をぶつける→お茶を口に含んだ後思いっきり吹き出すという激烈かわいい凌くんが炸裂するシーンである。凌くんかわいいシーンの中でも三本の指に入るかわいさ。

帰ってきた准にランドセルをぶん投げられて怯えたりなどなど、かわいい凌くんが凝縮されている。

その後芹澤は「凌と話したいことがある」と1人部屋に残る。

凌くんを部屋から出てくるようにドア越しに話をする。

 

「未来は一方向だけに進んでいるわけではない。私が選択できる未来もあるはずだ、って。違う未来を選択すれば、いくらだって幸せになれる。違う未来を選択しよう。そのために、まずは部屋から出るんだ。」

 

その言葉に立ち上がり、凌くんはドアを開ける。わかってくれたか、と嬉しそうな芹澤をよそに、凌くんは仏頂面のままこうたずねる。

 

「……違う未来を選んでも、不幸になったらどうすんの?」

 

ごもっともな質問に、芹澤はうまく答えられず言葉を濁す。困ったように笑ってみることしかできずに凌くんに笑いかけていれば、凌くんもにこにこと笑う……のだが。

次の瞬間にバン!とドアを閉めてしまいその表情も先ほどよりもずっとずっと不機嫌になっており完全にジト目で、この凌くんがわたしはこの舞台の中の小学生凌くんで一番好きでした。() きらきらにこにこ笑ってたと思えば一瞬でジト目になるギャップと表情の切り替えがたまらなくていつもニヤニヤしながら見ていました……

 (ちなみに芹澤先生に劇の話をもちだされ、「それって、すっごい個性だと思いませんか?」の時の心の底から「ハァア?」みたいな顔をしている凌くんも死ぬほど推しています)

 

次点で好きな凌くんといえばやはりちくわぶしかないのではないだろうか……基本的に8歳の凌くんはどこか舌ったらずで声も幼く語尾を伸ばしがちなのだけれど、それに拍車をかける大根役者ぶり。

きっとやりたくない役を無理やりやらされているというところもあるのだろうが、それにしてもやる気がない。かわいい。かわいい

 

「僕は、絶対に、あきらめませぇーん」

「いいなずけがいても、かまいませぇーん。僕は、あなたと、一緒になりたい!」

「はんぺんちゃん……」

「僕は、そうは、おもいませぇーん。はんぺんチーズは、確かにおいしい。でも、あなたは、おでんとしても、十分に、やっていけるはずです!」

「こんぶくん……」

「それがなんだっていうんだい?」

 

これがちくわぶ凌くんの全セリフであるのだが、あきらかにすべてひらがなで表記しても問題のなさそうな凌くんの口ぶり……語尾を伸ばす話し方……めっちゃくちゃ嫌そうな顔……そして瑛子に煽られてる時のクソクソ嫌そうな顔……この世のかわいいを凝縮して放出させて具現化したら、きっとこんな感じなんだろうなという光景が舞台の上で繰り広げられていて、防振双眼鏡を覗きながら口元だけでにやける変質者と化していました。

こうやって振り返って見ると6つしか台詞はなくて、ほんとに時間的にも5分あるかないか?ぐらいの場面であるのにこんなに幸せになれる瞬間あっただろうか……(いやない……)

 

そして劇の練習が終われば、芹澤は瑛子に話があると持ちかける。

話があると言ったにもかかわらずなかなか本題を切り出さない芹澤に、部屋にこもっていた凌くんは鍵を開けて部屋から出てくる。

 

「……パパに会ってきた」

 

その言葉に目を見開く瑛子。芹澤は凌くんを落ち着かせようとするが、凌くんは止まらない。

 

「パパんとこ行きたい」

「…………いっても、いい……?」

 

動揺する大人たちをよそに、凌くんはただ自分の気持ちだけを吐露する。

凌くんは、意外と末っ子らしく、誰よりも頑固でわがままなのかもしれない。国男が家を出た時も、部屋にこもってゲームをして心配をしてもらおうとした。この場面でも、自分の意思を突き通すためだけに口を開く。父に会いたい。その気持ちだけが凌くんを動かしてその幼いこころを揺らす。

 

「了解取ってこいって……そしたら、おかあさんと話すって」

 

そんな凌くんの気持ちをよそに、瑛子はこう告げるのだ。

 

「押し付けないでください」

「凌ちゃんのこと可哀想だって思うのは、もうやめていただけませんか?」

「了解なんてしない、するわけないでしょ?」

「お母さん、ずーっと凌ちゃんと一緒に暮らしたいもの」

「だから、お父さんと話することなんてない」

 

凌くんは、少なからず瑛子が国男と話をしてくれるという希望的観測を持って、勇気を出して部屋から出て、自分の口で、父の元へ行きたいとそう告げたのに、瑛子はそんな気持ちをばっさりと切り捨てる。「了解なんてしない」そう言われた瞬間に、はっと見開かれる目がとてつもなく苦しくてつらいと思っていつも涙が出た。きっと国男と仲良しであったであろう瑛子、そんな瑛子ですらも国男との交流を断つと言うのだから、そのときの凌くんの悲しみはきっと計り知れないものであるだろう。

 

「あの人に伝えてください、もう絶対に凌ちゃんに会わないでほしいって」

「それでいいわよね?凌ちゃん」

 

そう言われて、頷ける子供がいるのだろうか。父を慕い、ただ父に会いたくて、父のそばにいたくて言っただけなのに、もはや父に会うことすらも許されなくなってしまう。凌くんはうつむいて言葉をなくしてしまう。握り締められた右手には先ほどまで部屋で1人遊びに使用していたボールが握られている(後から理由はわかる)黙りこくってしまった凌くんに、瑛子は追い討ちのように告げるのだ。

 

「……行かないで……お願いだから……お母さんと一緒に…ずっといてよお……!凌ちゃん……!」

 

泣き声が混ざったその言葉に、凌くんは我に帰ったように顔を上げる。泣き出した母にうろたえながら、凌くんは目を泳がせる。その瞳は十分なほどに濡れ、今にも凌くんも泣き出してしまいそうであるのに、凌くんが強いのはここからなのである。

手に握ったボールをポケットに戻し、瑛子のほうへ向き合って、小さいけれど、震えているけれど、確かにこう言うのだ。

 

「……行かないよ」

 

「もう、……どこにもいかないから」

 

きっと泣き出したいのは凌くんの方で、それでも、凌くんの前でいちばん弱い姿をみせる母を、安心させるために言った「もう、どこにもいかないから」。この台詞が重すぎて、重すぎて、涙を流さずにはいられなかった。

凌くんはまだ8歳。このあとの場面で明かされる「凌くんは『あんちゃん』にはなれなかった事実」のときの台詞に

 

「もうあんちゃんじゃないから」

「お腹の子は、天使になって飛んでったんだって。母さんが言ってた」

 

凌くんは、まだ8歳なのである。

あんちゃんになれなかったこと、下の子が生まれなかった事実を、母の瑛子はオブラートに包んで凌くんに伝えた。

凌くんは、瑛子に言われた言葉そのままを信じて、自分があんちゃんになれなかったことを受け止めているのである。

あんちゃんになれなかった。それがどうしてかなんて凌くんにはわからない。凌くんは、まだ8歳なのだから。

そんな事実すらも理解できない「こども」の凌くんが言った「どこにもいかないから」の責任は、その小さい背中に背負うにはどうしようもなく大きくて重いものであるはずなのに、凌くんは甘んじてそれを受け入れる。

そう言われて、泣き顔で笑う瑛子に向かって、凌くんも笑うのだ。自分の気持ちなんて押し殺して、ポケットにしまったボールと一緒に。

凌くんは母と生きることを選んだのである。

 

さて上記で述べた凌くんが父国男に芹澤と会いに行くシーンであるのだが、こちらもどちらかといえばコミカルなシーンも挟まれており、救いのある描写でよかったとそう思う。

芹澤に連れられ、工事現場に連れて来られる凌くん。芹澤が飛ばす冗談にも笑わずに、久しぶりに対面する父にどこか緊張しながら遠慮して言葉を選んでいるように見える。

劇を見にこれないと言った国男に、お前が説得するんだと芹澤はキャッチボールをすることを持ちかける。

渡されたグローブとボール、2人残されたところで国男は凌くんに投げてみろと言う。

キャッチボールが初めてで、ボールをうまく投げられない凌くん。国男は、「ボールの握り方も知らないのか?」ボールの持ち方から教えてやる。

言われた通りにボールを持ち、投げる凌くんに国男は嬉しそうに凌くんのことを褒める。

ここで凌くんはとても嬉しそうに笑うのだ。はじめての父とのキャッチボール、父に褒めてもらえて、父と遊べて、そのすべてが凌くんを笑顔にする。凌くんは国男のことが本当に好きであることがわかる。

まさに幸せな家族そのもので、見ているだけで心が温まったのを覚えている。

学校でからかわれることを国男に話して、学校に行きたくないと告げる凌くん。パパんとこくればいい、そう言われて凌くんは涙ぐみながら言う。

 

「行きたい……!パパんとこ……!」

 

これがきっと凌くんの本心であって、嘘ではない気持ちなのだ。

ここで「ママの了解だけはとってこい」と言われる凌くん、うなずく顔は純粋無垢な子供のまま。このやり取りがあってからの、上記で述べたようなことがあったと思えば、凌くんの悲しみと絶望、やるせなさはもう抱えきれないものであったはずである。

それでもこの思い出を胸に、凌くんは父と暮らすことを諦めた。凌くんの父との思い出は、ここで止まってしまったのである。

BEST STAGE 2017年9月号51ページに、とても腑に落ちる表現でこの凌くんを表現した一文があった。

 

「自分の半分は成長しても、残り半分は、失った欠片のせいで、成長できず、少年性は大人になった今も残ったままだ。」

 

凌くんは、父との最後の思い出であるキャッチボールをしたこの日から、子供の自分を引きずったまま大きくなってしまった。それが父が帰って来たことにより、やっと昔の自分と決別することができたのではないだろうか。

 

このことは、凌くんのバイト先であるダビング屋に国男が来た後、天狗で呑むシーンでも表れていると思う。

もうお酒も飲めるほど大きくなった凌くん、父との2人酒。この時の凌くんは、この舞台あんちゃんの中でいちばん優しい顔をしている。

声も、表情も、仕草も。すべてが柔らかくて優しいのだ。

ようやく会えた父との思い出の更新を、心から喜んでいたからこその態度なのだろう。

 それでも、父国男は凌くんとのキャッチボールの思い出は覚えていないのだ。

 

「覚えてないの?」

 

そう聞き返す凌くんの表情は驚きと失望が混じったものに変わってしまっている。

自分が心の奥底にしまっておいたただひとつの大切な思い出を、忘れたとそう態度だけでも示されてしまえば失意にうちひしがれるのは当然のことだろう。

ビールが注がれたグラスを握りしめたまま、凌くんは8歳の自分を思い出してしまう。父が消えて、ただ会いたいと思っていた、あの日の幼すぎる自分のことを。

 

凌くんは、父が自分の前から去ろうとする場面ですべて、父を一度引き止める。そしてまた、「会う約束」を取り付けるのだ。

もう二度と、自分の前から何も言わずにいなくなってほしくない。「待って!」その子供のような呼びとめかたに、いつも胸が締め付けられるような思いがした。

その「待って」にまた父がいなくなるかもしれないという恐怖と、また、もう何回でも父に会えるという希望が込められていたのかは、凌くんの表情だけでも伝わって来た。

 

国男が持って来た8ミリのテープ、それをダビングした凌くんは家族みんなにそれを見せることを決意した。

DVDは見る前から姉2人に「それってただの盗撮よね」と無下にあしらわれてしまい、そこから姉2人は泣きながら辛かった過去を吐露する。

 

「だからすまないとか、……そういう言葉聞きたいんじゃないって!」

 

毎回冴のこの台詞でわたしはいつも泣いてしまっていた。自分の感情をむき出しにして叫ぶ冴、その後凌くんは静かな声でこう言うのだ。

 

「……なに言ってんだよ、結局自分のためだったくせに」

「いいこと教えてやろうか。人の為って書いて偽りって読むんだよ」

 

いつも姉2人の後ろでおとなしくしていた凌くん。しっかり者の冴、強気な准の2人の下の弟という立場で、きっとそれなりに肩身狭く、時には姉を頼って生きて来たであろう凌くん。

そんな凌くんが静かに、それでも確かに姉に対して吐いた棘。その言葉はどんどん強いものになっていき、BGM代わりになった雷雨とともに姉2人へと向かう。

 

「煩わしかったんだろ!?ずっとめんどくさかったんだろ!」

「母さんがやっていいって言ったことはやらないで出てかないでって言ってんのに出てくってどういうことだよ!」

 

この言葉を凌くんが叫ぶ頃にはいつも泣いて泣いてハンカチで顔を抑えながら舞台を見つめていた。

凌くんは誰よりもきっと家族を思って、父のことも、母のことも姉2人のことも思っていてくれていた。だからこそ、こうして自分の気持ちを叫ぶように吐き出して、はっきりさせたかったのだ。

「父がいなくなった」ということを大義名分にして父を、父だけを悪者にする姉を、間違っていると言いたかったのではないだろうか。

また、凌くんは30歳にしてアルバイト、実家暮らしで姉2人にはやいやいとうるさく言われていたが、もしかしたら。学生の時から家を出た姉2人、母に止められても構わずにいなくなった2人を見て、悲しそうにする母にこれ以上寂しい思いをさせたくないと思って家に残り続けているとそう考えるのは、わたしの考えすぎなのだろうか。

「……もう、どこにもいかないから」

あのとき言った言葉の呪縛に、凌くんは今も深層心理の中で縛られているのではないだろうか。

 

激しくなる口論に瑛子は泣きながらそれを止める。国男はと言えば泣きじゃくる瑛子にお茶を渡してそれを鎮めているが、結局姉弟の口論にはなんの口出しもせず傍観しているだけ。

帰って。そう言われて立ち上がり帰ろうとする国男に、凌くんはまた叫ぶ。

 

「帰るなって!」

「今出てったら……前と同じだろ?」

 

前、とは国男が家を出たその日のことを言っているのだろうけれど、凌くんはその時のことを覚えているのだろうか。なにも言わずに出ていった、父のことを。母や姉たちや自分に、苦労だけ押し付けて去った父のことを。

 

それでも、父には姉弟に隠していたことがあったのだ。

「健忘症」という病にかかっていて、本当に凌くんたち姉弟の記憶がない、ということ。

その事実を受け止めきれない凌くんたちは呆然と立ち尽くす。「都合よすぎるじゃない」本当にその通りだと思った。きっと凌くんだってそう思っただろう。信じられない、そんな顔をする凌くんの表情は痛々しくて仕方がなかった。

やっと会えた父は、自分のことなどなにも覚えていなかったのだ。本当の絶望に向き合えば、言葉すらなくなってしまうのだ。

最後にまた謝罪をして、出て行こうとする父。

呆然としていた凌くんは、我に帰ったように叫ぶ。

 

「だから帰るなって!」

「思い出せよ……ちゃんと!俺たちのこと!」

「ちゃんと思い出すまで……ここにいろって!」

 

帰るな。いなくなるな。思い出せ。あの日のことを。父と過ごした、あの最後の日のことを。

場面は切り替わって前述したキャッチボールのシーンになる。

凌くんと国男の、最後の思い出。

 

その後にまたシーンは切り替わる。凌くんはビデオカメラを片手に、父のドキュメント映画を撮るとそう豪語する。

国男、瑛子、冴、准、そして自分自身、凌。

1人ずつ紹介をした後に、凌くんは座り込んで国男を写す。

 

「初めて父とした……キャッチボールが、忘れられず、すぐにでもこの家を離れようとしましたが、それもできず!……それから、父に会うことはありませんでした」

「健忘症になった父は、まったく覚えていないと思いますが、……あのキャッチボールが、父との、一番の思い出です!」

 

「……あなたには、……こういう、家族がいるんです……思い出してください!ちゃんと思い出して、苦労をかけた、母や!姉たちに!心の底から、詫びてください!」

 

 凌くんは、最後まで自分に謝れなんて言わなかった。

確かにいちばん苦労をしたのは母瑛子であるだろうし、その母を積極的に支えたのも冴や准である。

けれども、「父に会いたい」そう願っても叶わなかった凌くん。その年齢に合わない責任を背負わされた凌くん。そんな凌くんにも、国男は詫びるべきだとわたしは思った。

凌くんは、あの時背負った責任を少しでも下ろせたのだろうか。そう思っているうちに、舞台は暗転していく。

 

舞台が明るくなれば、国男が天狗でちくわぶを食べている。

凌くんが現れて、凌くんがあんちゃんになれなかった理由、冒頭で流れたやりとりの動画を国男に見せる。

 

「でも……今更凌って呼ぶのもなあ」

「別にいいじゃん」

「いやなんか、照れるっていうかさ」

「息子の名前呼ぶのに、照れる親がいるかよ」

「まあ……そうなんだけどさ」

 

動画は流れ続ける。パソコンから流れる音声の中の国男が、8歳の凌くんに向かって呼びかける。

「これからは、あんちゃんって呼ぶか!凌のこと!」

それに重なるように、国男は口を開くのだ。

 

「……もう少し、あんちゃんって呼んでてもいいか?」

 

そんな国男に凌くんは微笑む。少しだけ恥ずかしそうに、でもどこか誇らしげに。

 

「……わかったよ」

 

そして舞台の上に響くのは、パソコンから流れる、瑛子と国男の声。凌くんに向かって呼びかける、その愛称だけ。

 

「あんちゃん!」 「あんちゃん!」

 

 

こうして、舞台「あんちゃん」は幕を閉じるのである。

 

 

 

本当に考えさせられるお話だと思いました。

わたしは恵まれた家に住んでいる、それでも毎日不満はあって。そんな贅沢な悩みすら、なくなってからしか気づかないことが怖いと感じました。

舞台の上に立つ北山くんは、ほんとうに「凌くん」そのもので、台詞がないシーンでも、表情だけで魅せる演技がすごくて、悲しそうに何度も瞬かれる瞼や、優しく微笑む口元が、すべて「凌くん」という人間をやりきっていて、何回も何回も泣いていました。

東京新大久保、大阪森ノ宮。全34公演、北山宏光くん主演舞台「あんちゃん」

ほんとうにお疲れ様でした。何事もなく幕が降りてよかったです。凌くんという人物に出会えて幸せでした。最高の感動と、思い出をありがとう。

また、この舞台を作って、北山くんを抜擢してくださった田村さんにも多大なる感謝を。

全公演駆け抜けてくださったキャストの皆さんにも惜しみない拍手を。

舞台の上の北山くんを見て、元気と勇気をもらえました。

本当に本当にお疲れ様でした!ありがとうございました!

 

 

 

 

 

 引用: 『BEST STAGE』2017年9月号 P.51 株式会社音楽と人